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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)2578号 判決

原告

伊藤萬株式会社

右代表者

河村良彦

右訴訟代理人

河合弘之

竹内康二

西村國彦

井上智治

池永朝昭

栗宇一樹

被告

ロッテ物産株式会社

右代表者

重光武雄

右訴訟代理人

古沢昭二

原慎一

腰原誠

主文

被告は原告に対し、金四、八五一万円とこれに対する昭和五七年三月一三日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は金四〇〇万円の担保を供することを条件に仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一原告主張の請求原因第1項記載の事実〈編注・原・被告会社の業種〉及び浜田敏嗣が昭和五六年一一月二日当時被告会社の物資部繊維課洋装品係長の地位にあつたことはいずれも当事者間に争いがなく、また、〈証拠〉によれば、前川浩一は、昭和五六年一一月二日当時原告会社のシャツユニフォーム資材部カジュアル課長の地位にあつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二〈証拠〉を総合すると、昭和五六年一一月二日、前川浩一は原告会社の前記課長として、浜田敏嗣は被告会社の前記係長として、コール天スラヅクス一五、〇〇〇本(単価一、四五〇円)、長袖ハイネック三〇、〇〇〇枚(単価九五〇円)を代金総額金五、〇二五万円で原告から被告に売渡す旨の売買契約を締結したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

ところで、前川浩一及び浜田敏嗣は、それぞれ前記のとおり、右売買契約当時原告会社の課長、被告会社の係長にあつたのであるが、株式会社の課長、係長は、商法第四三条第一項に定める手代に該ると解すべきであり、その結果、その担当職務については裁判外の権限(代理権)を有することになる。そうして、前記認定の売買契約の目的物は、洋装の衣料品であるから、これは、いずれも右課長または係長の担当職務の範囲内の取引であることは明らかである。従つて、前記売買契約は、原告と被告との間でその効果が生ずることは当然であるといわなければならない。

三1 そこで被告主張の抗弁1について判断するに、番頭、手代等の代理人の権限に加えた制限は、例えば、一定金額以上の取引を対象とする等限定的、列挙的でなければならないと解すべきであり、係長に任命しながら、すべての取引をするについて、課長、部長等を経て常務取締役または社長の決済を経けなければならないとするような一切の代理権を制限することは、内部規律上の問題はともかくとして、法の予定しないところであるといわなければならない。

従つて、前記売買契約当時洋装品担当係長であつた浜田敏嗣に一切の売買契約を締結する代理権がなかつたとする被告の抗弁は主張自体失当として排斥を免れない。

2(一)  被告主張の抗弁2については、〈証拠〉によれば、前記認定の本件売買契約締結に際し、原告会社の前川課長は、原告会社の契約書用紙に必要事項を記載し(甲第一号証)、これを被告会社の浜田係長に提示して被告会社の記名印及び浜田係長の個人印の押捺を求め、これに対しては浜田係長は承諾したが、さらに、被告会社の社印の押捺するよう求めたところ、浜田係長は、被告会社においては、この種の売買契約書には社印を押捺する慣習はないが、上司と相談のうえ検討し、後日返事をする旨述べたことが認められ、右認定に反する証人浜田敏嗣の証言は信用できない。

(二)  ところで、〈証拠〉によれば、前記認定の売買契約は、訴外株式会社シントーと被告会社の浜田係長との間で売買価格も含めてほゞ売買について合意に達していたものを、被告の二〇日締切、その翌月末日に一二〇日サイドの約束手形を振出すという支払条件が右訴外会社にとつて厳しいため、原告会社の前川課長は、右訴外会社代表者水谷精吾からの依頼により、三パーセントの手数料を受取ることを条件に、原告が右訴外会社から前記衣料品を買取り、これを被告に売却し、右訴外会社に対しては当月末に約束手形を振出すという介入取引としてなされたものであること、〈証拠〉によれば、原告会社においては、繊維品の取引は売買契約書を作成することなくなされるものも多数存することがそれぞれ認められるのであるから、原告と被告との取引が本件が最初であつたとしても、原被告とも我国における著名な商社であること(これは当裁判所に顕著な事実である)に照らせば、前記(一)のような事実があつたとしても原告会社の前川課長において、浜田敏嗣が被告を代理する意思がなく、個人として取引する意思であることを知つていたとも、またこれを容易に知ることができたとも断定することはできず、他に右被告の抗弁を積極的に認定できる証拠はない。

四そうして、〈証拠〉によれば、原告は、昭和五六年一一月二〇日及び二一日の両日、被告会社浜田係長の指示に従い、前記売買契約の履行としてコール天スラックス一三、八〇〇本と長袖ハイネック三〇、〇〇〇枚をジャルジョイ東京株式会社に引渡したことが認められる。

五従つて、右引渡した物品の限度で前記売買契約代金の支払いとこれに対する引渡しの後である昭和五七年三月一三日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告の主位的請求は理由があるからこれを認容することとし、民事訴訟法第八九条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(定塚孝司)

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